月と坂道
ひどく急な坂道
息を切らして あなたの背中追いかけている
鈍く光る月は もつれる足を嗤うように 励ますように
いつか 気づいてくれるだろうか
いつか 振り向いてくれるだろうか
そして 私はずっとずっと 見失わずにゆけるだろうか
ひどく急な坂道
中学生の頃から大好きな篠原美也子さんの歌。彼女の歌でお気に入りの曲はたくさんあるが、これだけは格別。聞きながら、歌いながら、何度泣いたか分からないから。そんな恋ばかりしてきた。追いかけて、ぜんぜん振り向いてもらえなくて、それでも追いかけて、その人の幸せのことだけ考えて、自分が傷ついてもどうでもよくて。
振り向けば はるか遠く 街には 星が降って
そして 私は 暗闇を目指す あなたの方へ
あの頃の私は、きっと今のような安寧な生活を想像できなかっただろう。一人の人を愛し、その人に愛され、心穏やかに日々を過ごす。夢ではあっても、現実のものとして受け入れられなかっただろう。引き返せば楽なことも分かっていて、諦めれば明るい場所に帰れるのも知っていて、それでもなお、暗闇へ。坂道を登って。
今でも時々思い出す。坂道を登るつらさを。暗闇を歩く恐ろしさを。それでもなお憧れる気持ちを。そして、その心地よさを。一言で言えば「ときめき」とか「どきどき」とかそういう言葉になるのかもしれない。今ではあまり感じないその心地よさが少し懐かしく、また感じることができたらと、少し憧れる。
きっと、恋に恋をしていたのだろう。つらくても追いかける自分をヒロインみたいに見ていたのかもしれない。でも、あの頃と違う視点から、今の私は恋に恋をしているのかな。そう思うこともある。